もしもの話

もうほんとうのこともはなせない
始末に負えない未来について
戻れないなら停めてしまおう
脳と脊髄を大輪にたとえて
はじめから幽霊と知ってたくせに
名無しは夢も悪夢も希望も見ない生き物
心臓も食べてあげられなかった
愚かしくも狂いながらも、今は歌いたい
詩が貴方を美化の獣に変えてしまう
呼び水に誘われて呑まれるも好いだろう
美しい君よ、燃える花よ、何故影は赤いのか

うまく笑えているでしょう
さぞや天秤も傾いたことだろう
欺瞞でできた左目
あさましいですうしろめたいですあなたがすきです
何と心中したつもりでいるのか
おぞましいものをみてしまったのだね
僕を肯定できる理由は見つかりましたか
覆りつつある法則を抱いて
害悪であり災厄であり、貴方であること
埋火は誰を指して告げたか
命題も定理も君を描けない
てのひらで包みこめるサイズの檻をください
怯えた怪物の牙みたいなひと
鍵盤には青が滴り
罰に釣りあう罪状が見つからない

暴いても奪っても貴方が私になれるはずもなく
のちに指へ刻んだという
陽の届かない国に射すもの
野に限りなどなかろうに
初めて柘榴を食べた日のこと
泣みだと蜂蜜
蛾が集るが如く求めて求めて求めた
貴方を呪ってもどうやらあの子は救えないみたい
欠けたのではなく消えたのです
繰り返して擦り切れた名前があります
懐かしむまえに悼んでしまうわるい癖
煙水晶に閉じ込めた野鼠の本音
零度がほどける微熱の夜
バカラグラスに角砂糖は似合わない

もしも貴方が私なんかを見つけなければ
四百四病の誤診カルテ
解体して組み換えた、ぼくは案山子になれたでしょうか
知りたくないし知られたくない、ぼくの422個の失策
喩えばなしだから笑っていいよ
乱反射のおわりに素顔を映してしまったひと
君、この雨すべてに名前をつけるというのかい
耳のない兎が耳付帽を手に入れて、手放すまでの9年間
花違いであなたに出会う
いつまで眠っているの、もうパレードが終わってしまうよ
巻き戻してやりなおして次こそは完成させます
もつれて絡まる糸は何色が滴るか

辿るは正しいデッドエンド
誰も運命を貸してくれない
濃紺が滲んでとける
たしかにひとりではないけれど
遠くの国でのできごとですから
壊死した言葉を花壇に埋めた
薔薇ではなく君であった場合に
失くしたばかりの水色涙
シャンデリアの下にあるという

戒めたいならわたしを愛してからにしてください
繋いだ手を離すために必要な89個の理由
もしもといつかでしか留められない空ろ約束
NOとYESとGOの関係
僕を役立たずにしてくれたひと
釘とペンをまちがえた
ノイズの裏、静寂の朝、さみしがり屋の音楽隊
「嘘にも居場所が必要だ」
創造と諧謔をこねてつくった歪んだ鏡

ささやかでおだやかな、死と詩と死
厚い紙束が散らばってそれから
思いつく限りの否定をぶつけてやりたいのに
眠れる花に名付けた愚かは誰だ
無垢と純真を棘冠にして
理詰めの仮死は今日もあまい

全て赦されて何もなくなってしまって
別の理由が必要なら私のせいにでもしなさい
手首も名前を欲しがった
幽霊でいい化け物でもいいあなたでなければそれでいい
名実ともに白殺しとなる
偽せた罰でもいいと言ったのは確かに私でした
「しあわせだ、どうしても、しあわせだ」
手品ですか詐術ですか奇跡でいいじゃないですか
視線を合わすのも指で触れるのもきっと痛い
待ってください、六時を過ぎても生きていたくない
お前が語った「もしも」はぜんぶ、この腹のなかにある
運命が涙を赦しても、君だけは見破ってくれないか

「もしもの話をしよう。
 兎穴をぼくが埋めておけば、あの日の花が赤くなければもしかしたら君はいまも、
 ……ただのたとえ話 いつものぼくのうそ
 さあおねむり。すべて夢にしてしまおう」