百題:すべての檻は君のため


001 ど どこかで破れるまでは正夢
002 の 呪えず恨めずただの英雄
003 お 鬼となるべく九つの死
004 り 理由ある双牙を抱く
005 も もはや選べぬ沙羅双樹
006 さ 寂れるいとまも与えずに
007 い 如何にも全たらんとする一
008 か 狩りの合図だ、犬歯を鳴らせ
009 を 愚かなりやと歌うべからず
010 ま 真白の毒血を垂らしゆく
011 つ 角も尾もまだ生えない
012 て 手つかずの領域をあげる
013 い 忌まわしくも愛しい左の目
014 る 累日重ねた新月を拾いに来た

015 は はからずも春だけを写すと云う
016 い 異食主義者にはナイフとえんぴつ
017 い 今でないなら一生わからなくていい
018 ろ 六月が巡るため置き去りにされた十月
019 に 鈍色を抱えた臓器にやさしく触れる
020 は 羽根は載せずきみを載せた天秤皿
021 ま 真夜中くらいいつだって造れる
022 だ 堕落腐敗はゆっくりであるべきだ
023 な 泣くのは幕が上がってからにしよう
024 り 理性が似合わないまま朝になって
025 き きっと綺麗で美しく無残なもの
026 れ 檸檬を知らない子どもたちへ
027 な 嘆かず鳥でいられるものか
028 い 意識宿す眸には山梔子を

029 お 音果てには神様がいた
030 ろ 録音機の働く地下室
031 か 佳日だけ書きあつめて
032 な 撫でてもまだ白磁のまま
033 ひ 陽を継ぐ番人の左手には夜
034 で 出逢えなかったらこれを二粒
035 い いずれの処方をお望みでしょう
036 た ただ再構築を試みては灰色で
037 か 仮にも恋を騙るのであれば
038 つ 椿との差異点を述べゆく
039 た 焚いた火では踊れない

040 く 靴が赤く焦げるまで
041 る 涙淵の底には細い椅子
042 え エナメル似合う星の棘々
043 ど 動機なき心臓たちの供述は
044 も 喪服は白藍空の真下でにじむ
045 た たとえば誰かが涯てと読んでも
046 が 瓦解しゆく文学だけなぞっている
047 え 永遠ならば灰に散ると信じてました
048 ど どうか僕に捕まっていてください
049 も 猛禽類だから連れてってくれる

050 ひ 光が届かなかった、それだけ
051 の 狼煙のように喪失を眺める
052 き 奇蹟じゃなくただの鳥籠
053 せ 性善説も裏切れないで
054 つ 爪痕くらいは残して
055 だ 誰かと誰かの約束
056 け けだし四百四病の外
057 が 画材こぼして静かの海
058 か カナリアと蜥蜴の棲む街
059 て 鉄錆沈む長雨を、瓶詰めに

060 す 総べてなお真火が邪魔で
061 べ べっこう飴と交換に闇
062 て 展開する遠雷架け橋
063 の 覗穴には鵺の正体
064 お 朧の所以に烟り花を
065 り 竜も虎もあるいは蝶も
066 は 春には埋まり消える惨劇
067 き 君に白夜を私には白昼夢を
068 み 未遂で終えた羽化を堕す
069 の 脳は隠して小指見せて
070 た 垂れて髄液、吐いて純血
071 め 命じてください貴方の欲を

072 ほ 仄かを棄てる火はもう来ない
073 し 白百合が蛇から奪ったもの
074 ぼ 慕情でなくば何に従えと
075 し 獅子に隠れ咲くといい
076 し 四肢は脳に歓呼せし
077 た 絶えず空かさず言求め
078 た 黄昏にも法が与えられて
079 る 縷々と立ちのぼる朱の残響
080 さ 裂いて咲かれて蜜を知る
081 い 意識はとけて惨の名残
082 わ 禍たるを見逃す夕立
083 い 忌み火を読むべからず
084 と 融けゆくまでは腐蝕あれ

085 ひ 火種が繭をつくって昏睡る
086 か 枯れるなお前は春なのだから
087 り 凛の花首にも鎖をください
088 を 檻には貴方と星とを匿う
089 み 満つるまで月と謳うな
090 つ つまり魔法使いってこと
091 け 顕花の高貴を今こそ称えよ
092 る 累と呼んでしまえばよかった
093 け 獣と種子のさかいに二つ足
094 も 模倣した正義は可燃の日
095 の のけものにもなれない
096 に 似月の乳白は誰の肋骨か
097 う 海が黄ばんでここまで臭う
098 ま 迷い子のふりをしていました
099 れ 零下のうちがわに孕んだ苛烈を
100 て 哲学はまだ生きてると君は告げた

どの檻も災禍を待っている

「灰色にはまだ為りきれない」
「愚かな火でいたかった」

狂えども違えども
陽の季節だけが糧

すべての檻は君のため

星星滴る幸いと
光を見つける獣に産まれて